紅白歌合戦 究極にスリリングな番組


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晦日が最も好きな一日だ。それは、クリスマスが終わってから仕事納め、大掃除、年末年始の食事の準備など怒涛の日々の終わりに、紅白歌合戦があるからかもしれない。

紅白アーティストの選出は芸能事務所の力関係で決まり、納得できないとの声も多い。私はそれに同意しつつも、いまでも紅白は見るに値する番組だと思っている。

 

先述したように選出に賛否はあるが、一流のアーティストが揃うこと。凝った演出とセット。審査員と客がいるNHKホールという空間。そして、何よりもそれらを共有する日本中の視聴者。

ハレとケという言葉があるが、紅白歌合戦は高らかに、この日が「ハレ」である、と言ってくれる。スパンコールや羽根がついたきらびやかでときに重そうな衣装、艶やかな着物、たくさんのバックダンサー、キラキラと宙を舞うアルミの吹雪…。テレビをつけるだけで、家にいながらに非日常的な時間を過ごすことができる。

 

どの瞬間も何百万人の視聴者に見られている紅白は、一秒の濃度が他の番組とは全く異なる。ときにアーティストの決定的な瞬間を映し出す。

例えば、2014年の神田沙也加。その年『アナと雪の女王』の声優として大活躍した彼女は、「みんなで歌おう」という企画のパートで『生まれてはじめて』を歌唱した。エルサ役のイディナ・メンデルと、ニューヨークからの中継だった。『ありのままで』が流れて明転したNHKホールに立つ出場歌手の中に、松田聖子もいた。アップになった松田聖子は涙目で、いまにも泣きそうな表情だった。

神田沙也加は松田聖子の娘であり、アイドルとしてデビュー後自分の道を模索した末、ミュージカルに岐路を見出し、ついに自分の力で紅白の舞台に立った。それは『ありのままで』の歌詞にも重なる。松田聖子のアップの一瞬に、国民の知るストーリーすべてが詰まっていた。

それを何百万人の視聴者と同じ共有できる。SNSを見なくても多くの人が同じ感情になる。すべての出場歌手が人々の記憶に残る歌手になるわけではないが、心を動かされる瞬間がある。

 

しかし、紅白はこのように感動的な瞬間ばかりではない。むしろ混沌とした状態こそ紅白の本質であると思う。例えば、2016年はマツコとタモリが会場に登場するパートがあり日本中が首を捻ったし、数年続けていて慣れてしまったが三山ひろしの歌唱中にけん玉のギネス記録に挑戦する流れは突飛すぎて驚いた。先日の2020年紅白ではGReeeeNがCGで登場してお茶の間を騒然とさせた。

こうした珍妙な演出に日本国民が一緒にザワザワするというのが醍醐味だ。

 

アーティストの単独コンサートでも同じ規模か、それ以上の華やかな舞台はある。けれど、多くのアーティストや審査員が集まる紅白は、つねに何が起きるか分からない。一分一秒スケジュールが決まっているはずなのに、いつも不確定要素がある。

司会の綾瀬はるかがミスりまくったり、猪苗代湖ズが歌唱前に震災についてコメントして空気が変わったり、審査員の新垣結衣が照れながら恋ダンスをしたこともあった。松任谷由実がサプライズで会場に登場して、司会者・出場者が本気で驚く場面もあった。常に当日にならないと分からない化学変化のような感じがする。

写るものすべてが、NHK的な公序良俗に反してはいけないという縛りもある。司会者がそれらに配慮している雰囲気は視聴者にも伝わる。だから、妙によそよそしいやりとりにハラハラするし、笑ってしまうときもある。

 

出演者も大勢の視聴者に見られる大舞台であるからミスはできない。それに加えて、一年の節目の日であるという緊張感もあるのではないか。その年の集大成であるし、終わってしまうので、その年に関しては取り返しがつかない。

 

紅白は一秒単位で撮られる映像が決まっており、厳しいタイムスケジュールで進行されている。視聴者も長年番組を見続けて、それを知っている。審査員が長く話している場面で、司会者が早めに切り上げたそうにしている姿は毎年恒例である。究極にコントロールされていると知っているからこそ、そこからはみ出てしまった場面が妙におかしみを生む。

 

このオンタイム進行への緊張感は、大晦日だからこそ高まる。新年を迎える前の時間はタイムリミットである。そして、番組の進行はカウントダウンでもある。年が終わるという最も不可逆に思える瞬間。新しい年を迎えるという気持ちの高まり。その時間を、何百万人とリアルタイムで経験しているということ。

これらが合わさる紅白は、この上なくスリリングである。

 

蛍の光が流れて、番組がエンディングを迎えると、私たちはようやく緊張から解放される。さっきまで見ていたテレビの非日常空間から、日常空間へ戻る。23時45分に紅白が終わると、残り15分で支度をして、各々新年を迎える。

 

さて、今年の紅白について。コロナ禍で無観客、多数の会場から行われた。NHKホールの一体感がなくなってしまうのかと心配だったが、いつもよりステージを広く使っていたり、レーザービームを出しまくっていたり、面白かった。後半は見応えがあったが、箸休め的な部分がなくて少しバランスが悪かったと思う。中継で映った嵐の東京ドームのセットは、おそらく紅白の制作費を超えた巨額の予算で作られていることが感じられた。今年は、白組に大差をつけて紅組が勝ったけど、多分本来白組に投票してた人が嵐のオンラインライブを見ていた感じもする。

 

オンラインライブが一般的になって、大晦日の過ごし方の選択肢も増えた。けど、やっぱり大晦日には紅白を見たいな。